でも僕が本当に怖いと思うのは、他人の言いぶんを無批判に受け入れて、そのまま信じてしまう連中です。
自分では何も生み出さず、何も理解していないくせに、口当たりの良い、受け入れやすい他人の意見に踊らされて集団で行動する連中です。
彼らは自分が何か間違ったことをしているんじゃないかないんて、これっぽっちも、ちらっとでも考えたりはしないんです。
自分が誰かを無意味に、決定的に傷つけているかもしれないなんていうことに思い当りもしないような連中です。
彼らはそういう自分たちの行動がどんな結果をもたらそうと、何に責任も取りやしないんです。
本当に怖いのはそういう連中です。
*
一息でそう言い終えたあと、僕はぼんやりと中立的で無色透明な一点をただ見つめていた。
喉が渇いたのでソルティ・ドッグを飲みたかったけれどメニューには見当たらなかった。
仕方なくジントニックとミックスナッツのおかわりを注文する。
先輩は入口に一番近いスツールで一人でギムレットを飲んでいる女性をしばらく眺めてから、誰に向けるでもなく呟いた。
「みんな見よう見まねでわかったふりをしないといけないのさ」
ビートルズ・トリビュートバンドはサージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンドを演奏してからステージを後にした。
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村上春樹『レキシントンホテル』「沈黙」から抜粋(一部修正)後半は加筆
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