――新型コロナ禍を乗り切るための施策として消費税率の引き下げをめぐる議論が政治の世界で起きています。斎藤さんは2010年7月に発刊された『消費税のカラクリ』(講談社現代新書)、『決定版消費税のカラクリ』(ちくま文庫)で消費税不要論を提起し、その問題点を具体的かつ詳細に書かれています。その考えは現在も変わりませんか。
はい。いまも悪魔の税制だと思っています。消費税はあらゆる商品・サービスの全流通段階で課せられます。小売の段階はもちろん、小売店が問屋から仕入れるときも、問屋がメーカーから仕入れるときも、メーカーが素材メーカーから仕入れるときも全部かかります。輸送にもかかるし、保管の倉庫代にもかかる。ただし、2003年までは年商3000万円を下回る場合は納税義務を負わない合法的な「免税」事業者と見なされていたのですが、これが04年には年商1000万円以上の事業者はすべて納税義務を負わされることになりました。まさに中小企業つぶしといえる措置です。下請けの町工場が、元請けの大工場に部品を納める際に消費税を乗せて請求書を持っていけば「お前は二度と来るな」と言われ、暗に「取引中止」をほのめかされるといった事態は消費税の必然です。この理不尽から立場の弱い事業者が逃れる術は一切なくなったといっても過言ではありません。
帳簿上は消費税を支払ってもらえた形になったとしても「消費税分は値引きしろ。安くしろよ」と求められれば応じるしかなく、結局は収益が悪化するなかで消費税分を自己負担せざるを得なくなる構造も常態化しています。年商1000万円規模なら、現行税率で単純計算すると消費税は100万円。これが持ち出しになるわけですから、経営環境の悪化は免れませんし、現実に倒産して自殺する経営者も続出しています。
にもかかわらず、この地獄のような構図を一般のサラリーマンはなかなか理解してくれません。理由は1980年代から流布され続けているクロヨン論。税金を源泉徴収されるサラリーマンばかりが多くの税金を取られて損をしており、自営業や事業主など自分で確定申告する人はうまく脱税しているという認識を広げられてしまったからです。そもそもサラリーマン税制はナチスドイツが戦費調達のために導入した戦時徴税システムです。それを絶対的な正義と見なす価値観は政治権力と大資本、大手広告代理店を軸とするマスメディアが一体となって国民大衆に刷り込む「国策PR」から生まれました。そんな「民意」を巧妙に利用してつくられた輸出型大企業のための税制が消費税なのです。
この点は周知の事実となっていますが、消費税の課税対象は日本国内での取引きに限定されるため、海外への輸出には課税されません。この結果、輸出企業が仕入れなどのために国内の取引先に支払ったことになっている消費税は「輸出戻し税」として、数百億円から数千億円単位で還付されています。詳細は『消費税のカラクリ』に書きましたので、興味がある方はご一読ください。
とにかく欺瞞と欠陥だらけの税金というしかなく、いまも私は消費税廃止論者です。しかし、新型コロナ対策として消費税率の引き下げには反対です。消費税の問題点は多々ありますが、転嫁できない現実が続いていることが一番の問題だと思っています。中小零細企業は取引先に転嫁できない消費税を自腹で納め続けなければならず、おまけに不況による消費者の低価格志向のあおりを受けて値引きを迫られる状況下で、いま消費税率を引き下げれば、過剰な価格引き下げ圧力が働くのは必定だからです。ますますデフレが深刻になり連鎖倒産が起きかねません。やはり、30年くらいのスパンで現在の税制を見直し、最終的に消費税制を廃止していくしかないでしょう。この税制の悪魔性は、それほどまでに根深く、ひとたび陥れば容易なことでは脱出がかなわないということです。
――すぐにできることはありませんか。
租税特別措置の見直しでしょう。これは経団連の幹部に直接聞いた話ですが、「日本の法人税は世界一高いと言ってるが本当はそうじゃない」と言うんです。表面税率だけを比べると高いのですが、多種多様な特別措置があって「企業が国策に合ったことをすると研究開発減税などを税制面で優遇してくれる。そういう事実に照らせばトータルでは決して高くない」と。日本の社会保険料や年金、健康保険の負担は企業と従業員でおよそ半々ですが、ヨーロッパでは6割くらいを企業が負担しています。この点でも日本の企業負担は高いわけではないのです。
所得税の累進税率も1970年代の19段階から、99年には4段階にまで緩くなりました。最も税率の高い年間所得1800万円以上でもわずか37パーセントです。1800万円といえば大企業の部長クラスですが、その上の役員になると億単位の所得、ユニクロやトヨタの会長クラスになれば天文学的な所得があるのに、適用税率は同じというのは実におかしいわけです。さすがに批判を集めて2007年からは5段階にして最高税率は年間所得1800万円以上が40パーセントに、2015年からは4000万円以上には45パーセントの税率が課されることになりましたが、まだまだ、とても十分とはいえないのです。この累進税率の見直しをもっともっと強化しなければ格差是正など夢のまた夢。だから累進を強化する。これは国税の話です。いま、住民税はフラットで富裕層もそうじゃない人も10パーセント。これも累進にすべきでしょう。あとは富裕税の新設と相続税の見直しですね。宗教法人課税も検討の余地があると思います。
ここで消費税に話を戻しますが、私が学生だった40年ほど前も「日本は財政破綻寸前だ」と言われていました。ところが、現実はそうなっていません。その理由について「消費税を導入したからだ」という人もいますが、とんでもない。消費税が導入されたのは1989年。3パーセントから5パーセント、8パーセントから10パーセントになり税収が増え、いまや基幹税の一つになっています。それで税収が増えて赤字国債の返済が進んだかといえば決してそんなことはなく、「税と社会保障の一体改革」と言っておきながら社会保障費が十分に増額されたわけでもありません。結局、大企業の法人税減税の穴埋めに使われただけだと断じてよいと思います。
東京海上アセットマネジメントという投資顧問会社のエコノミストが、2019年12月に「GDPに占める日本の借金残高比率は現在200パーセント。この数字は戦争末期と同じ」という試算を公にしています。消費税が導入される80年代後半はまだ50パーセント。導入後に4倍の200パーセントまで財政負担が上がっているのはおかしいと思いませんか。政府は消費税の導入時に「少子高齢化に備える」と言っていました。88年にワンルームマンションを運営する会社が、顧客向けに発行していた宣伝媒体で「日本銀行の調べによると、定年後に老夫婦が暮らすには年金の支給だけでは足りない。あと1500万くらい必要」として「だから当社のワンルームマンションを買って老後に備えてください」と呼びかけたことがあります。日銀のデータというのは事実であり、だからこそ宣伝にも使えた。いまでも、誰にでも確認できますよ。昨年話題になった「2000万円問題」と似ていませんか。あの当時は「1500万円足りないから消費税で賄う」と言っていたのに、結局30年経ったら老後の資金不足は拡大してしまった。これも社会保障には全然使われていないという証しでしょう。なんだってみんな、たった30年前のそんな肝心なことを忘れてしまうのでしょう。そんなことだから、いつまでも騙(だま)され続けるのではないですか。
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